Claude Codeの公式金融プラグインを個人で使えるか試した記録
Claude Codeには、よく使う作業の手順をあらかじめ書いておいて呼び出せるスキルという仕組みがある。それを束ねて配布できるようにしたものがプラグインだ。
Anthropicは金融の仕事向けのプラグイン集を公式に出している。anthropics/financial-services がそれで、企業価値の算定や資産配分の見直しといった業務がスキルになっている。自分の資産管理にも使えたら儲けものだと思って入れてみたのだが、結論から言うと個人には使えなかった。
今回の要点はこれら。
- データの接続先が12件用意されているが、すべて法人契約が前提。個人では1件も契約できない
- 個人が使うなら、決算数値などのデータは自分で用意してAIに渡すことになる
- 資産運用の機能はアメリカの税制でできているので、日本ではそのまま動かない
- ただし各スキルの指示書(
SKILL.mdというテキストファイル)はGitHubで公開されていて誰でも読める。AIへの指示の書き方の見本としては価値がある
データの接続先が1件も使えなかった
金融の分析には元データが要る。このプラグイン集には、データを売っている会社のサービスにAIをつなぐ設定が12件分入っていた。FactSetやMoody's、S&P Globalといった、金融では有名な会社が並んでいる。
ところが claude plugin details で確認したら、接続先の数が0と表示された。12件登録されているはずなのに1件も認識されていない。インストール時にエラーも警告も出ていない。
原因は接続設定のファイルが壊れていたことだった。検証用に配布元をもう一つ自分で作って、壊れたままの版と直した版を入れ比べたところ、前者は0件、後者は12件と表示された。修正は本家に提案してある。この件は再現手順も含めて別の記事に書くつもり。
もっとも、仮に12件とも認識されていても、どれも法人向けに売られているサービスなので個人には使えない。Morningstarのように個人向け商品を出している会社もあるが、接続先に指定されているのは法人向けの窓口のほうだった。
データが取れないなら自分で入力することになる。決算書類から手作業で数字を拾う方法は代替手段としてスキルの中に書いてあるので、そういう使い方も想定されてはいる。ただ、そこまでやるなら公式のプラグインを使う意味は薄いと思う。
資産運用の機能はアメリカの税制向けだった
個人として期待していたのは資産運用の系統だった。崩れた資産配分を戻すリバランスと、値下がりした資産をあえて売って税負担を減らすタックスロスハーベスティング。この2つが動けば自分の資産管理に使える。
資産運用スキルの指示書を読むと、前提がアメリカの制度だった。口座の種類はIRAやRoth、401kといった向こうの優遇口座。売った日の前後30日に同じような銘柄を買うと損失を計上できなくなるウォッシュセール規則や、一定年齢から毎年いくら以上引き出せというRMDの義務も組み込まれている。
日本で使うのはNISA、iDeCo、特定口座あたりだ。利益に20.315%かかるのは特定口座で、NISAの枠内なら非課税、iDeCoも運用中は課税されない。前提の制度がまるごと違う。
このスキルがやっているのは、目標の配分からどれだけずれたかを測って、売買にかかる税金より配分を直す利益のほうが大きいかを比べることだ。この判定の考え方自体は日本でも変わらないので流用できる。ただ税制に触れている箇所は全部書き直しになる。
呼び出すたびにコストがかかる
AIは文章を読んで動くので、渡す文章が長いほど処理量が増える。この量をトークンという単位で数える。プラグインを入れると、そこに入っているスキルの説明文が毎回AIに渡される。
| 区分 | トークン |
|---|---|
| 入れているだけで毎回かかる | 約 1,964 |
| DCF評価のスキルを呼んだとき | 約 19,400 |
| 企業の比較分析を呼んだとき | 約 11,400 |
入れているだけなら約2,000トークンで許容範囲だと思う。問題は呼び出したときで、企業価値の算定を1回走らせるたびに19,400トークンが乗る。指示書が1,263行あって、その全文が毎回読み込まれるからだ。やり直した回数がそのまま費用になる。
AIに表計算を作らせるときの禁止事項
それでも試してよかったと思っているのは、企業価値算定スキルの指示書1,263行を読んだからだ。書いてあるのは金融の知識ではなく、ほとんどが禁止事項の積み上げだった。
- 計算結果のセルは必ずExcelの数式にしろ。プログラムで計算した答えを数字として貼るな(SKILL.md:44-47)
- 条件を変えて比較する75個のセルは、例外なく数式で埋めろ(:62、:565)
- 複雑だからと言い訳して、後で埋めるつもりの仮の値を残すな(:64、:585)
1つめは原文だとこう書かれている。見出しに「交渉の余地なし」と付いている。
Formulas Over Hardcodes (NON-NEGOTIABLE): Every projection, margin, discount factor, PV, and sensitivity cell MUST be a live Excel formula — never a value computed in Python and written as a number
AIに表計算ファイルを作らせたことがあれば、この3つが何を防ごうとしているのか分かると思う。数式ではなく答えの数字を貼られると後から前提を変えられない。一部のセルだけ手を抜かれると、気付かないまま壊れたファイルを使うことになる。そして「ここは複雑なので簡略化しました」と書いて逃げる。全部やられたことがある。
ここに書かれているのは金融に限った話ではない。AIに何かの成果物を作らせるときの指示の書き方として、分野を問わずそのまま使える。個人にとって一番役に立ったのはここだった。
結局、個人が使う意味はあるか
このプラグイン集は、データ提供会社と契約している法人が使うものだった。個人が資産管理の道具として使えるものではない。投資銀行や企業買収ファンド向けの機能に至っては、対応する仕事が個人には存在しない。
一方で、54個あるスキルの指示書はGitHubで公開されていて、リポジトリをクローンしなくてもブラウザでそのまま読める。長い指示書をどう組み立てて、どんな失敗を先回りして禁じているのか。それを見るには手頃な分量だった。
気になる人は、下のリンクから実物を読んでみてほしい。
スキルの本体はこのディレクトリ配下。業種別のプラグインがそれぞれ skills/ を持っていて、各スキルの SKILL.md がそのまま指示書になっている。この記事で触れた企業価値算定のスキルは vertical-plugins/financial-analysis の中。
GitHub